50フラン紙幣
解 剖

有名な50フラン紙幣です。1992年に印刷を開始し、一般に出回ったのは1993年だったと記憶します。おもちゃかと思うほど賑やかなデザインで、偽札対策のためいろいろと趣向が凝らしてあります。以下にその一部を紹介します。
紹介する部分が全体像の何処に位置するかをまず見ていただきましょう。50フラン紙幣を2枚並べてあります。上が1992年印刷のもの、下は1994年印刷版です。赤枠に番号が振ってあります。以下、その番号を使って説明します。
(詳しい説明は省きますが、飛行機の位置は印刷ロット毎にふらふらと動きます。また、ウワバミの位置も微妙に変化しています。)
4
まず「4」の部分を先に見てください。枠の中央部にある薄い縦線、ふたつの紙幣でずれているのが上の写真でも判りますね? この縦の線は、印刷位置が随分変化します。詳しい説明は必要ないでしょう。
以下、順を追って拡大図を示しながら説明します。
1および1’
左上および右上に8本の青い横線が見えます。これを拡大すると下の絵のようになります。
「青い横線」は小さな文字の列なのですね。切れ目なく続いていますが、一箇所の例外を除いて、単語に区切ることができます。ただし、全体として意味のある文章になってはいません。回文でもありません。何かの暗号かも知れませんが、良く判りません。一行中では同じ文字列が約2回繰り返されています。8本の線は同じ文字列から構成されていますが、開始位置が異なります。(開始位置は印刷の版毎にも異なるようです)。
左側に、文字列にして約6本分の長さの紺色(色が濃いので画面では黒く見えると思います)の縦棒があります。この正体が謎なのです。何か記号を含んでいると思われますが、紫外線には反応しません。赤外線またはX線で透視すれば何か現れるのかも知れません。縦位置は印刷のロット毎に変化するようです。
2
下からも光を当てて、透過光および反射光で撮影しています。サンテックスの透かし印刷と、その右にある王子さま・星に注目してください。
星と王子さまは二重に見えない、つまり、裏と表が鏡像に印刷され、その対応位置がぴたりと一致しているのです。凄い技術でしょう? シャツとズボンの色も、表と裏に塗り分けられたものです。
サンテックスの透かし像はどうしたわけか瞳が縦長で、猫の目のように見えてしまいます。この透かしの位置も一定しません。
3
右端にある「フランス銀行」の文字と、額面を表す「50」の輪郭線は同じ版面で構成され、一蓮托生で印刷されます。この位置がまた変化するのです。このふらつきは技術が未熟なせいではありません(だって、裏表を一致させることができる技術を持ち合わせているのですから)。バックにある赤い子午線との位置関係、および、50の輪郭と影とのずれが、印刷ロット毎に異なるようです。
5
サンテックスの名前と生存期間です。紙幣発行直後に、名前に間違いがあると指摘されました。ふたつを見比べてください。上が1992年印刷のもの、下は1994年印刷の紙幣です。1994年の方が2列に印刷されて文字が大きくなった(ふたつの写真の拡大率は異なります)のが目立ちますが、それはどうでも良いことです。

問題の「間違い」は“Exupery”の大文字のEの上に“´”があるかないかです。ない方が正しいのです。

1992年と1993年印刷分は上のタイプ、1994年印刷分からは下のタイプに訂正されました。
【訂正年度については「かっちゃん」さんから重要な情報を戴きました。かっちゃんさん、ありがとうございました。】
6
紙幣表の左下に、とても見にくいのですが、光を斜めに反射させてみると白い「ヒツジ」が見えます。これが面白い仕掛けになっています。下の写真を見てください。これは同じヒツジに、暗闇で異なった波長の紫外線を当てたものです。紫外線は、可視光線に近い方から「A紫外線(UVA)」「B紫外線(UVB)」「C紫外線(UVC)」と呼ばれていることはご存じですね? UVAの代表的な波長である 365nm の光を当てるとヒツジさんは緑色に光ります。ところが、302nm のUVBや 254nm のUVCでは橙色に光るのです。フランス造幣局も仲々凝ったことをすると思いませんか?
二種類の蛍光物質を混ぜているのか、単一物質でふたつの吸収帯とそれに対応する異なった発光域をもつ色素を開発したのかは、この実験だけでは判断不能です。いずれにせよ、蛍光物質は耐久性に問題があり、強い光があたる環境ではあまり長持ちしないのが普通です。随分思い切ったことをしたものと感心するのですが、考えてみれば、紙幣が強い光に曝されている時間はそんなに長くはないのが普通なので、数年間の流通期間中に支障を来たすことはないのでしょう。
ユーロへ通貨の全面切り替えにともなって、各国紙幣・硬貨は姿を消します。もちろん50フラン札も。最後のロットは印刷済み。もう新しく刷られることはありません。未使用の新札を10枚、フランスの銀行から手に入れてもらいました。連番、つまり刷り上がり1枚の大判からカットされた一続きの紙幣です。縦細線と短冊線の横位置はピッタリ一致しているのに、短冊模様のカット位置はさまざまであることが判ります。機械的に印刷・裁断されていますから、カット位置には規則性があります。札ナンバー・細線の横位置・短冊のカット位置、この3つが矛盾すれば、それは偽札であるということになります。

せっかくの愉しい図柄だったのに、消えてしまうのは残念な気がします。(2001.6.12)
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