サンテックスを撃墜した男?

著者達の誤算

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これでは子供も騙せない
 「子供だまし」という言葉がありますが、これでは子供を騙すことすらできないでしょう。少なくとも現在のところ、「証言」を裏付ける「証拠」は ひとつも ありません。それどころか、「そんなはずはない」と手持ちの記録資料類を提示してのクレームが集中しています。それなのに、リッペルト説信奉者は、「信じろ」と言い募ることしかできないのです。

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著者達の誤算

 リッペルト説に関しては、ふたつの書籍が世に問われます。3月20日に発売された Jacques Pradel & Luc Vanrell 氏の共著:Saint-Exupéry, L'ultime secret と、9月に発売予定の Claas Triebel & Lino von Gartzen 氏共著: Der Prinz, der Pilot und Antoine de Saint-Exupéry です。後者はまだその概要も明らかにはされておりませんから、現時点で議論の対象となるのは前者のみとなります。

 諸記録に照らし合わせると、リッペルト説が成立する余地はありません。つまり、(現在知られている証拠に立脚する限り)リッペルト氏は嘘をついていると言うことになります。しかし、リッペルト氏に非難が集中しているとは言い難い状態です。それでは Pradel 氏 に向いているのかというと、それも少し違うようです。Pradel 氏は自前の資料を持っておらず、その実態は、単なるゴーストライターに過ぎません。情報の出所は Lino von Gartzen 氏なのです。リッペルト氏の言い分が正しいか否かの判断も、von Gartzen 氏が行ったはずです。氏に対する視線はかなり厳しいものになっています。


Horst Rippert

 
 リッペルトは無名でした*。「撃墜数29(または28)と称しているようだが、どう勘定しても足りない。一体いつ墜としたんだ?」と、Luftwaffe オタク達の間でマニアックな話題にされること以外には。

  * 日本では、203機撃墜の ヘルムート・リップフェルト Helmuth Lipfert と混同している人がいますが、全くの別人です。

 突如として、リッペルトの名前が世界中を駆け巡りました。「サンテックスを撃墜したと告白した」というのです。ただし、どのマスコミも直接インタビューしたわけではありません。ラ・プロヴァンス紙電子版が14日の夜に、映像付きのスクープ速報を掲載し、翌朝に追い打ちの記事を打ちます。同じ日に予定通り土曜日定期刊行の週刊誌が発売されました。他紙は、批判も検証もできないまま、「3月20日に発売予定の本の要約を記載した週刊誌が発売された。それに依れば」という、全くの紹介・提灯記事にならざるを得ない、戦略的な時間配置でした。世界中のマスコミを週刊誌と単行本の宣伝媒体として動員する、実にみごとな販売計画の勝利と言うべきでしょう。

 リッペルト“仮説”Hypothesis* には問題山積ですが、それは別項に譲って、ここではリッペルト本人に関することに話を絞ります。

* 「リッペルトがサンテックスを撃墜した」「証拠・証言・記録書類」はひとつもなく、リッペルト説が単なる"Hypothesis"に過ぎないことは、著者自身が認めています。
【ただし、“Hypothesis”を「仮説」という日本語に置き換えてしまうことには、若干の問題があります。von Galtzen 氏は、“working hypothesis”(作業仮説) であると(渋々ながら)認めたのだろうと思います。ある仮定を立てて、それを立証・検証するために実験系・検証方法を組み立てる叩き台のことです。認知されていない存在であることは間違いありませんが、ものごとを科学的に考察するためには必要な存在です。その通り(真説)であるか、勝手な妄想(偽説)であるかは、検討の結果導き出されます。“Hypothesis”は、現在のところ、それを支持する証拠がない/不充分である(「定説」でない)ことを意味するのであって、「言葉自体」に否定的な意味や「誤りである」という判断を含むものではありません。】


 撃墜スコアーに嘘・水増しはないのか?
 世界中のオタク達が首を傾げています。どう数えても29には届かないのです。
【撃墜したのに、同僚が証言してくれないことがあったと示唆します。自分がユダヤ人系であるために、表には現れない人種差別があったことすらも臭わせるのです。あまり褒められた弁解とはいえませんが、それにしても、公言するスコアー数が不正確であることの言い訳にはなりません。】
 戦闘機乗りとしての着任時期が不明なので、29全部が判明する可能性は残っています。それまで結論は据え置きですが、もし「嘘つき」と判定されれば、彼の証言が信用されないのは当然のことです。

 なぜ今まで黙っていたのか?
 「von Galtzen が電話してきたからだ」と言うのでしょう。もし探し当てられなかったら沈黙を守り続けたと。一見もっともな言い分ですが、説得性はありません。「サンテックスを撃墜したのはあなたでしょう」と尋ねられたのではないのです。沈黙を守り通すことは可能でした。64年間も秘匿してきたことを、なぜ今になって言い出す必要があるのでしょう?

 3./JGr200 の僚友は生き残っているか?
 記録類は、当日の P-38 型機の撃墜はおろか、空中戦も、迎撃出撃もなかったと告げています。リッペルトが言うような警戒出撃があったか否か、3./JGr200 の生き残りが証言してくれるでしょう。“64年間”とは、都合の悪い事実を知っている生き残りがいなくなるまでの時間だったのではないかという、強い疑惑があります。

 なぜ単機でいたのか?
 ドイツ戦闘機隊の基本構成単位はロッテと呼ばれる2機編隊です。片方が撃墜されるか、迷子になるでもしない限り、単機で飛ぶことはあり得ません(故障離脱の場合は、故障機を援護して共に帰投します)。
 僚機がいれば、撃墜の事実を証言してくれる筈です。今のところ、「単機でいた」ことを納得させる理由は述べられておりません。ありもしない「撃墜」を否定されないためには、「単機」で飛んでいたことにせざるを得ないからだろうと疑われるのは、当然のことです。

 なぜ
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 きりがありませんから、別項に託します。
 心配されていた、リッペルト氏に対するバッシングは起きていません(皆無というわけではありませんが . . . )。「国のために命がけで戦った生き残り」なのですから、それなりの敬意といたわりは皆が感じています。でたらめな証言ですが、それはまもなく否定されて実害を遺さないことでしょうから、「ショウノナイ耄碌爺さん」としてスルーすることにしたのでしょう。
 騒ぎの一番の被害者は、サンテックスその人でしょう。もしリッペルト説が事実ならば、“消極的自殺”が確定してしまいますから。


Jacques Pradel

 Saint-Exupéry, l'ultime secret を書いた Jaques Pradel 氏は、自前の資料を持っているわけではありません。聴き書きで von Galtzen 氏の提灯を掲げるゴーストライターなのです。したがって、内容の嘘や誤りを追求しても意味はないでしょう。【この書物は、リッペルト説のために書かれたわけではありません。このページは“リッペルト説”に特化して論じたいと思います。論点が散漫化するので、本体部分の資料元であり共著者でもある Luc Vanrell 氏に関しては、取り上げないことにします。】

 Pradel 氏の最大の失点は、「信用がない人」だということに尽きます。フランス国内では、UFOもの/ロズウェルもの番組の、司会者として有名なようです(下欄の動画参照)。
 あちこちのフォーラムやチャットサイトで、以下のような書き込みが散見されます:

 I find it difficult to believe that the link with Rippert has only just now come to light and puzzled as to how Rippert knew that he had shot Saint-Ex down? Why is he only now admitting it? Adding more than a little to my cloud of doubt is the fact, unearthed in a quick Google of author Jacques Pradel, that this author had some involvement with the Roswell alien autopsy film, not to mention a good few other slighlty "interesting" stories! Maybe there will yet be a Saint-Ex/Roswell UFO link.......!


 I think the claims of Rippert need to be viewed with some caution, although it remains to be seen what evidence the author presents in his book. Maybe the Roswell aliens imparted some useful and incontrevertible information to him.....


 ...you are not concerned at Jacques Pradel's involvement here - for non-French readers Pradel is a well-known TV 'investigative' journalist & reseacher into paranormal phenomena - makes documentaries on 'mysteries' such as the Roswell incident/autopsy...

 ..besides, Rippert's story just doesn't stand up...why has he waited 60+ years to tell his story..how did he know Saint-Ex was flying this plane (assuming he ever saw it), where is his victory claim etc etc....


 The author, Jacques Pradel is known in France as a TV presenter (always, cheap popular shows) and previously having had some connection with the Roswell Alien Autopsy film, can not be qualified as a serious historian. In his book, he present no evidence at all, nothing, no reference to any

 リッペルトの人物像に、UFO 証言の影が重なってしまったわけです。
 その彼が司会する番組がどのようなものであるかという見本は:

番組内容の例
 無数にある中から、手近なリストのうちのほんの数例を抜き出したものです。興味がある人は、芋蔓式に嫌というほど閲覧できます。
 OVNI : Odyssée Pradel
 L'Odyssée de l'êtrange 2/4 part.2 解剖:Second opus de l'Odyssée de l'étrange présentée par Jacques Pradel le 23 Octobre 1995 consacré ê l'affaire de Rosswell. Il manque le reportage sur l'entreprise de maquillage. Elle est disponible (2b) sans le son ê cause d'un copyright.
 L'Odyssée de l'étrange 1/4 part.1Premier opus de l'Odyssée de l'étrange présentée par Jacques Pradel le 21 Juin 1995.
 L'Odyssée de l'étrange 1/4 part.6 Premier opus de l'Odyssée de l'étrange présentée par Jacques Pradel le 21 Juin 1995.
 L'Odyssée de l'étrange 3/4 part.4 Troisième opus de l'Odyss仔 de l'étrange présentée par Jacques Pradel le 27 Novembre 1995.Au Programme: Rèincarnation, le procès vu en rêve, la vie extra-terrestre, la piste du Bigfoot.
 L'Odyssée de l'étrange 3/4 part.6 Troisième opus de l'Odyssèe de l'ètrange prèsentèe par Jacques Pradel le 27 Novembre1995.Au Programme: Rèincarnation, le procès vu en rêve, la vie extra-terrestre, la piste du Bigfoot.
 mysteres ovni trans en provence en 1981 encore une histoire d'ovni, en france cette fois !

 日本にも同じ手合いの TV プロデューサーがいるようですが、マスメディアが本来あるべき姿をなおざりにした、確信犯的な詐欺師なのですから、信頼されないのは当然の帰結でしょう。
 (筆頭著者が Jaques Pradel 氏であるということは)もともとは、大衆向けのふざけた娯楽本として企画された可能性があるのかと考えてみましたが、それでは共著者の Luc Vanrell 氏が浮かばれないので、そのような斟酌は無用であろうと思われます。著者として Jaques Pradel 氏を起用したために、読む前から内容の不真面目さが判ってしまうという失敗(ある意味正直な)企画になってしまいました。


Lino von Gartzen

 本命は今年の秋に出版予定です:
  Der Prinz, der Pilot und Antoine de Saint-Exupéry ― Das Rätsel um den letzten Flug ―
   Claas Triebel & Lino von Gartzen 著
   Herbig 社
   ISBN:978-3-7766-2569-1
   予価:約25ユーロ
   発行予定:2008.09.

 世界中のマスコミは、まんまと無料の宣伝媒体に使われてしまいました。本(Saint-Exupéry, l'ultime secret)を「売る」ためにめぐらせた、綿密な計算としたたかな策略とが、見て取れます。
 (露払いとして先発出版された Saint-Exupéry, l'ultime secret を読む限り、執筆時点での)既知の物証・証言と矛盾するヘマは残していません。不都合な新知見や物証が出てこない限り、決着がつかないままで推移し、著書は長期間生き残れると期待していたはずです。誤算は、思いがけなくも喰らってしまった「素早く、精細な反論」の数々でしょう。本人が認めているように、「証拠」はひとつもなく、リッペルトの「告白」を信じ(あるいは嘘であることを知りながら、それを利用し)て 、心証だけで物語を綴り合わせたのですから。【でも、「本当は嘘だった」という本が出版されるとは思われません。】

 “リッペルト仮説”を立証できる新証拠・新証言が提示されるのか、鉄面皮な言い逃れが披瀝されることになるのか。実態がまだ姿を見せないので、論評のしようがありません。秋までお預けです。

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