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アルゼンチンと言えば、なんと言ってもタンゴ! というのは素人観光客の浅はかな考え。南北に長くて、高山も乾燥した荒野も、はては南氷洋に面した極寒の地までもが、この国の本当の姿なのだ。とはいえ、地球を半周、はるばるブエノスアイレスまでやって来た身としては、「何はともあれやっぱりタンゴ!」とならざるを得ない。
大劇場でタンゴが踊られることは滅多にない。舞台タンゴは「タンゲリア」(またはタンゲリーア)と呼ばれる、踊り場を備えたレストランやバーで演奏され、踊られる。
タンゲリアにも栄枯盛衰の風は吹く。倒産してしまった有名タンゲリアだってあるのだ。

| 素人受けのする観光客向けの舞台を見せるセニョール・タンゴの正面外観。倒産した劇場をタンゲリアに改装した。3階まである客席数は600、市内でいちばん大きい。 |
タンゴだけのショーではない。オープニングは、円形の舞台に馬2頭をあげて巴に絡ませるという大がかりで派手なもの。騎手は、ひとりが大きなスペイン国旗を、もうひとりが同じ大きさのアルゼンチン国旗を掲げて馬を操る。フォークランド(マルビナス)戦争以来、国を挙げて民族意識の高揚をはかっているようだ。

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華麗で優雅なワルツもある。シンフォニックなコンチネンタルタンゴも。 |
曲の演奏だけの時間や、オペレッタ、はては、天井から垂らした2本の白布に身体を絡ませながらゆっくりと舞い降りる、曲芸と体操をミックスしたようなパーフォーマンスまでまじえて、ラスベガスのショウをそのまま真似たような構成になっている。

| 見せ場はもちろんアルゼンチンタンゴ。女性ダンサーが一斉に逆さになって身を反らせるさまは曲芸並みだが、ショーダンスでは約束ごとの振り付けのようだ。 |

| セニョールタンゴだけは自家ラベルのワインを出す。これはテーブル(5〜6人用)ひとつに1本出されるマグナム瓶のラベル。 |

| 食事中に、カメラを片手に観劇記念写真を勧めにカメラマンとダンサーがやって来る。ダンサー相手にポーズをとった写真もお好み次第。帰る頃には大きなプリントができ上がっている。その写真を挟むフォルダー。カードやワインのラベル等、あらゆる物が同じデザインコンセプトで統一されている。 |

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ケランディはやや玄人受けのする歌と踊り。食事は、観光客向けのショウレストランでは一番と評価する人が多い。 バーカウンターで2方向に分離された客席の列が直角に交わる頂点の位置に舞台がある。ここで本当に踊れるのかと思うほど小さな舞台で、楽団をバックに少人数で踊る。さすがにドラマの所作事には、客席通路も使わざるを得ない。 |

| その日の演目やメンバー等。しかし、印刷されており、その日その日の変更には対応していないので、予定曲目と契約メンバーリストと理解すべきもの。 |
| 自家録音CD。お土産用に店内で売っている。 |

| どちらも有名店である「ミケランジェロ」と「ヴェンタナ」は隣り合って建っている。写真左側の煉瓦造り風の建物がミケランジェロ。その右の白い建物が、女性ダンサーの脚のロゴマーク*を一目見ればそれとわかるヴェンタナ。 |
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ヴェンタナは世界的に有名なタンゲリア。インターネットにウエブサイトを開いており予約画面もあるが、なぜか日本からの予約は出来なかった。 客席も(元劇場だった「セニョール・タンゴ」を別格として)トップクラスの広さ。その割りに、舞台は狭く、存分に踊りまくるといった風情ではないが、ダンサー,オルケスタ共にレベルは高い。「淡き光に」のストーリー性のある踊りと歌で幕が開く。踊りの実力は文句なし。バイレばかりではなく、カンテやバンドネオン独奏、更にはフォルクローレ等も挟む。幕間には、カーテン前の幅1メートルあまりの舞台前縁で男女1組が踊る技術は「さすが本場!」。 【観客の頭が写っているのは、前の席の人がストロボライトをたいたからです。わたくしは、舞台撮影に補助光を使うような非常識なまねはしません。ブレに悩まされながら、動きが止まる瞬間をスローシャッターでねらいます。】 |

| ヴィエホ・アルマセンは、観光客向けとしては最も玄人向きのタンゲリア。狭い道路を挟んで、向かって右がレストラン、左が劇場。 |

| タンゲリアはどこも夜開く。昼間は、太陽光に目をしょぼつかせるフクロウさながら。昼間は道路の交通量も多い。 |

| ショウだけの客もアルマセンには多い。食事コミなら、このレストランで食事をしながらショウの開幕を待つ。(もちろん食事のみの客も入ってくる。) |

| 客席は1階と2階に。どちらも舞台との距離は近く、一体感が溢れる。舞台のすぐ下は、客がシャンパングラスを置いているテーブルだ。歌も踊りも素晴らしいし、バンドネオンは絶品。スペイン語が解らなくとも、捨てて出てきた故郷パンパへの郷愁や、うらぶれた場末生活の哀感が伝わってくる。 |

| 踊り子・オルケスタメンバー・歌い手の名前その他が印刷されている。 |

| 自家録音CD。 |

| バー(酒場)を名乗る店、スール。観光客がゾロゾロと連れだって入る店ではない。地元のタンゴファンが飲み物だけ、または軽い食事をとりながらじっくりとタンゴを楽しむ店。肩触れ合うほど客席は狭い(筈だ。最後の夜に予定していたが、どうしても時間が取れなくなって、涙を飲んで断念する他なかった)。 |
技術に加えてスピード(つまりは若さ)に溢れる超一流のダンサーとオルケスタは、残念ながらアルゼンチンには居ないと覚悟した方がよい。劇団を組んで、世界中を巡業しているからだ。そうしたショウは、ブエノスアイレスではなく、パリ,ニューヨーク,東京で観るべきだ。
ブエノスでは、肢体と体力では衰えを争えないものの、情感込めてアルゼンチンの哀愁を歌い上げ、客席と心をひとつにしてタンゴを踊るヴェテラン達や、まだ未熟だが将来有望な若手のタンゴを楽しむことができる。バンドネオンの押し引きの音色差を身体で感じ取ることは、大劇場では望むべくもない。アルゼンチンタンゴの真髄は、やはりブエノスに尽きるのだ。