縦書きと横書き
☆どちらが読みやすい?☆

このような主張がいつまでも大手を振ってまかり通るのは、科学的な決着がつけられていないことに原因があります。本当に縦組みが読みやすいか、出版界共同で研究費を出し合って委託研究を(あるいは文部科学省が科学研究費補助金に時限の領域を設けて特定研究を)するべき時期に来ているのかも知れません。その時には是非私も、研究陣の一員に加えていただきたいものです。
〔簡単なことではありません。各グループが寄り集まる検討会で議論した上で、報告書をとりまとめるまでに3 - 5年を要するプロジェクトになろうかと思われます。被検者として大量のボランティアが必要ですし、活字の種類と大きさ・漢字と仮名の比率・行の長さ・行間の取り方・その他・変数がいっぱいあります(アルファベットとアラビア数字はこの際除外しましょう。それでなくては最初から結論が決まってしまい、多額の費用を投入して大がかりな研究をする意味がありません)。日頃の慣れの影響が出ない検査法を考えなければなりません。もちろん、二重盲検法を使って個人的な意見が入り込まないようにするのは当然のことです。横書きに適した新しい日本語フォント群の開発が、成果として残されることになるでしょう。仮名は漢字より少し幅が狭いプロポーションになるとか、単語と単語(あるいは語尾や助詞を含む単語群)の間を狭いスペースで区切るとか、今までになかった文の構成法が姿を現す可能性もあります。〕】
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上欄は、「抜群に読みやすい縦組み!」と広告を打った出版社に対する批判を込めて、新訳書評中に書いた文である。特定の出版物に限った話題ではなく、もう少し内容を深める必要もあるので、改めて項目を起こし、ここで取り上げ直す。
前置きが多岐にわたり、とりとめもないものになってしまうので、要点だけを箇条書きに挙げる。この程度のことは理解できているという前提で、本論に移りたい。
文書/書類 と 書物/本
- 文書
- 手紙・メモ・公用書類・他。文字の発生・発達と軌を一にする。まずは書字がなくては始まらない。しかし、今日では機械入力(キーボード)・音声入力が主流となりつつあり、漢字・仮名だからといって縦「書き」に拘束されることはなくなりつつある。
- 書籍
- 本質的には読むためのもの。しかし、筆写の時代にあっては、縦「書き」・横「書き」は筆記法や文字種に大きく制約された。活字の出現により、組版や読み易さだけを追求すればよい時代となった。
- 電子図書
- 日本は大幅に遅れているのだが、先進国・中進国の図書館は(古い蔵書も含めて)ディジタル化を進めている。画像類のディジタルデータベース化も急速に進行中である。新しい出版物は、当然、ディジタルデータを伴っている。遠からず、書籍というものはモニターのスクリーン上で「読む」ものとなる。地球規模での統一規格が避けて通れない。
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記録媒体
- 土砂
- 砂や土に棒で絵・文字を刻んだもの。耐久性はなく、一時的なメモや教育用の例示等にしか使われない。
- 岩石
- 石碑: 専門の石工が彫刻する。耐久性があり、支配者が時間を超えて記録を残すために使われる。
- 石板: 使用する染料・顔料によって耐久性が決まる。水や石墨を使う場合は一時的なものとなる。
- 粘土板
- 破壊的負荷に弱い欠点はあるが、乾燥地での耐久性はある。特に、焼結したものは非常に長期間の保存に耐える。重いので携行には不向き。冊子体にはできない。
- 木版
- 掲示用には便利。書籍用には薄く削った木冊(次項)として使われる。
- 簡冊
- 竹や木: 幅広のものは単票として、一行幅のものは紐でつないで巻物にする。
- 獣皮紙
- 家畜であるヒツジの皮は大量・安定的な供給が可能。裁断・規格化されて折り込まれ、冊子体の母体となった。
- 紙・布
- 巻物: 携行・保存に便利。
- 冊子: 携行・保存に便利。規格化が容易。印刷・製本に向く。
- 電子媒体
- 個人保存用: このサイトを訪れる人びとには説明の要はないと思われる。
- ネット提供: 提供システムや対象端末が利用価値を左右する。著作権の問題も大きい。
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筆記具
- 尖端棒(尖筆)
- 土砂や粘土板に使用。
- ペン
- 簡冊・皮紙・紙・布に使用。顔料系インクは耐久性がある。染料系インクは水に弱く、耐久性もない。
- 毛筆
- 書字用としては中国文化圏で発達。墨とセットで簡冊・紙に使用。墨の耐久性は抜群。
- キーボード・スキャナー・マイクロフォン・他
- ディジタル情報入力用。
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文字・フォント
- 楔形文字
- 粘土板と尖端棒。右手で書く場合、掘るのであれば右から左へ、押しつけるのであれば左から右へ綴ることになりやすい。現在使用されていない。
- 象形文字
- 世界各地で発生。文字の独立性が高く、縦書きにも横書きにもできる。現存は漢字のみ。
- 表音文字
- 文字群としての単語が必然。使用する文字によって縦・横の書字方向が決まる。ほとんどが横書き。仮名は珍しく縦書き用であるが、単語・スペース等の概念に欠け、原始的。通常は漢字と混ぜて使う。
- 文字デザイン
- アルファベット系(キリル文字も含む): 左からの横書き・横組み専用。小文字は幅や位置が同じでないという欠点がある。
アラビア文字系: 右からの横書き・横組み専用。幅と位置が一定しない。
漢字・仮名: 縦にも横にも使用可能であるが、草書・行書は縦書き・縦組み。手書きならば楷書体も縦書き用(組版は 縦組み・横組みどちらでも可)。すべての文字・記号の大きさが同一規格化されている。
- ディジタルフォント: 提示専用で、「書き」方向を選ばない。読みやすさ・レイアウトだけが要件。
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ヒト視覚系の特性
- 両眼視野
- 目が左右に並んでいる関係上、ヒトの視野は左右に広い。
- 急速眼球運動
- 睡眠には2種類あり、その内のひとつ(夢を見ている時期に相当)は非常に早い眼球運動(REM, 急速眼球運動:意識的にこの速度で眼球を動かすことはできない)が頻発する。ほとんどの教科書が REM のことを、「REM 睡眠中に水平方向の眼球運動が見られる」と記述しているほど、圧倒的に左右方向の動きが多い。眼球運動システムの特性に関係があると思われる。
- 狙撃・流し撮り
- 望遠レンズを使った流し撮りでは、左右の動きに追従するのは簡単だが、上下方向の動きはとらえ難い。
ライフルによる狙撃で標的が動いている場合、左右の動きには照準をキープできるが、上下方向の動きに追従することは難しく、落下傘降下やロープ降下をする標的は狙い難い。
これらの現象は、視覚系だけがその原因というわけではないが、主要因子は視覚情報処理系の特性にある。
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「墨刷り」の書籍は、紙と印刷インクが用いられ、フォントは写植の時代である。これとは別に、モニター上に表示する「ディジタル」書籍が台頭しつつある。これには、フォント種とコード統一の問題が残されているが、横組みで事実上の決着は付いているので、ここの主題とはしない。(ただし、将来これが主流であり、「墨刷り」がこれに合わせるべきであることは、議論の余地ない暗黙の了解事項である。)
読書に際しての「読みやすさ」は、慣れの要素が一番大きい。言語はもちろんのこと、用紙の紙質・色・形,文字種とその大きさ,縦組み・横組み,ページの大きさと余白,1ページあたりの行数と行間の広さ,段組み数,漢字と仮名の比率、等が「読みやすさ」に影響し、個々人によって好みが異なる。
ここでは、個人的な好みの要素は取り上げない。日本語書籍の組版はどうあるべきかという論議を、世界的な趨勢や教育の方向性を絡めて、望ましいモデルを模索する。
あちこちのブログ上で、極めて嘆かわしい主張が大手を振って横行している。「読みやすく感じる」のと「読みやすい」のとは、同列に論ずるべきテーマではない。
「読みやすく感じる」か否かは個性の問題である。馴れている方が違和感がなく、肉体の動きも情報処理速度も、スムースなのが人の常である。縦書き文化の中で育てば、当然のこと「縦書きを読みやすいと感じる」ことになる。それはホモ・サピエンスに取って「読みやすい」か否かとは別の問題なのだ。上記のごとく私は、縦書きに馴染んだ「大人」がどちらを「好む」かの議論をしているわけではない。
文書・読書にとっての利便性と正確さ、そして疲労の軽減という観点から、縦書き・横書きのどちらを選ぶべきか、そして、どちらを採用・教育すべきかの問題提起をし、横書き推挙の論陣を張っている。「個人的な好みの要素は取り上げない」と明言しているにもかかわらず、「私は縦書きが好きだ」といった、異なるレベルの主張で議論を濁すのは、論旨を正確に捉える能力が欠如しているからに他ならない。
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読書は視線移動によって行われる。
- 文字を読み取るのは視野の内の極めて狭い範囲でしかない
- 目を動かさずに網膜上に像を結ぶ範囲を「視野」という。片眼でも視野は左右に広い。両眼視野は更に左右に広くなっている。しかし、読書に関しては、視野の広さは殆ど意味を持たない。文字を判読できるのは視野中心部、立体角2°程の極めて狭い範囲だけなのだ。従って、読書は眼球を動かしながら行われる。眼球運動の滑らかさと疲労し難さ、そしてその安定性・正確性が鍵を握ることになる。もちろん、脳にとって判読しやすいフォントとその配列も必須の要件である。
視線移動は左右が自然である。
- ヒト視覚系の特質
- 地上生活者として身体機能を発達させてきたヒトにとって、注意を払うべき主な環境は自分を取り巻く水平面にあった。立体視をするため視野を狭めてしまった代償として、頻繁に視野を移動させる必要が生じた。体軸変換・首の回転・眼球運動の3つによってそれがなされる。眼球運動は、網膜上の「中心窩」と呼ばれる最も解像度が高い部分で対象を捉えるために行われるもので、これによる視線の移動範囲は、ほぼ運動開始時の視野内にとどまる。
読書は、この眼球運動だけで視線を移動させる。行末から次の行頭を正確に捉えるための眼球運動を繰り返す場合、上下方向よりは、左右方向の視線移動の方が疲労が少ないと思われる。
- 冊子体の規格
- 冊子体の紙面は縦長が原則である。活字の大きさや行間幅にもよるが、多くの縦組み書籍は、2段組にして楽に視線移動ができる行の長さになる。横組みならば、よほど活字が小さくない限り、1段組で支障ない範囲である。
国際化対応(=横組み)は避けられない。
- 各国言語の混用
- 情報の国際化は、原文の引用を不可避にする。必要ならば、引用符や引用枠を活用することによって、原文引用を不自由なくできるようにしなければならない。右横書きの言語は(場合によっては縦書きも)、それを明示する引用符や引用枠を新たにデザインするべきである。
- アラビア数字
- 特殊な場合を除き、数はアラビア数字で標記する。縦書きはまったく不適である。
現在の横組み技術は未熟である。
- 紙面の大きさと段組
- 読みやすい行の長さは、フォントと行間によって決まる。行が長すぎる場合は、2段組・3段組にしないと読み辛い。
- フォントの大きさと行間幅
- 活字の大きさと行間の幅は、各出版社の習慣と写植技術者の経験、それに、甚だしい場合は、コスト上の要請によって決められている。横書き出版物にたいする経験不足が、読みにくい横書きを作り出している要因のひとつである。
- 横組に適した読みやすいフォント
- 現在の日本語フォントは縦書き用か、それを元にしたデザインである。横書き・横組みに適したフォントを新たにデザインすることで、横組みをさらに読みやすくすることができると期待される。
- 新表記ルールの考案
- 下の囲み欄参照。
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- 左横書き新ルールの提案
- 句読点等は従来通り: 句読点にコンマとピリオドを使用するのは駄目(ピリオドは弱すぎる。コンマは、同等位の単語や文を列記するときに使う)。 中黒(・),コロン(:),セミコロン(;)も使える。シングル(’)ダブル(”)クォーテーションを含め、括弧類はすべて使用可。これらのフォント幅は、文字フォントより狭くする。
- 平常文の末尾には「。」を置く。疑問文の文末には「?」を置く *。必要に応じて「!」を使用してよい。複合記号「?!」および「!?」(1文字あつかい)を新たに作り、必要に応じて使用してよい。これら文末用フォントは、文字フォントと同じ(または少し幅広)枠幅とし、フォント自体は幅を狭くして枠内の左に寄せ、枠内の右側に空白域を設ける(現行の「。」「、」と同じ)。こうすることによって、次の文頭との間に狭いスペースを挿入したのと同じ効果が自動的に得られる。【コロン(:),セミコロン(;)も同じ作りにした方がよいかも知れない】
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* スペイン語のように、疑問文の頭尾を「¿」と「?」で挟むと文意が明確で非常に良いのだが、提案しても、多くの人に受け入れられることは難しいであろう。
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- 日本語以外のフォントは、それぞれの言語のものをそのまま流用(幅の多様性・カーニング処理等、すべてあるがままに受け入れて使用。右横書きの言語は、引用符や引用枠によってそれを明示する)。
- 単語群の概念を導入し、必要に応じて、活用語尾と助詞を含めた「単語群」を幅の狭い空白スペースで区切る(ただし、句読点や中黒(・)等の区切り記号と重用しない)。【例: 単語群の^概念を^導入し、必要に応じて、活用語尾と助詞を含めた「単語群」を^幅の狭いスペースで^区切る。ただし、句読点・中黒等の^区切り記号と^重用しない。(こんな感じになる ⇒ 単語群の 概念を 導入し、必要に応じて、活用語尾と助詞を含めた「単語群」を 幅の狭いスペースで 区切る。ただし、句読点・中黒等の 区切り記号と 重用しない。)】
- 横書き用新フォントの開発。
- ひとつのフォントデザインに一連のポイント数のフォント群(イタリック・ボールド等を含む)またはアウトラインフォントを用意する。フォントデザインが変わっても、同一ポイント数であれば幅・高さは同一であるよう、「ポイント数(または号数)」を規格化する。これによって、複数のデザインのフォントをひとつの文中に混ぜても、あるいは、フォントデザインを変更しても、組版が崩れることはなくなる。
行間幅は、著者・その他が自由に選べるようにワードプロセッサやレイアウタが配慮する。
- 同一フォント群でポイント数が同じであれば、フォントの基本幅と高さは同一とする。漢字・論理記号の枠はすべて基本幅・基本高さとする。仮名フォントの枠幅を基本幅より少し狭くデザインすることを認める。さらに、小文字の仮名(例:ダッシュの「ッ」「ュ」)は文字幅を狭くし、高さ方向枠内上部に空白を設けて、可視フォント部分を小さくする。区切りフォント類は自由にデザインしてよい。(例:3文字幅の長ダッシュ)。
基本高さの上下に、下線・傍点・ルビ文字 等の枠を設ける。
- アラビア数字のフォント幅は、欧文用に近いもの(ただしそのフォント群中で同じポイント数であれば、すべて同一幅)とする(プロポーションの規格化)。
- 1文字あつかいの、新記号のデザインを認める。(たとえば、「?!」「!?」。文末専用フォントについては、上記「文末用フォント 」を参照。)
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