サン=テグジュペリ

デッサン集成

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サン=テグジュペリ「デッサン集成,山崎 庸一郎・佐藤 久美子 訳,みすず書房,29.3 cm,326p.,2007年4月25日,¥15,000.- +税,ISBN 978-4-622-07283-6

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ダストジャケット。左:原書(ガリマール版),右:みすず書房版。


 2006年にガリマール社から出版された Antoine de Saint-Exupéry: Dessins aquarells, pastels, plums et crayons. の日本語訳が、みすず書房から出版されました。岩波書店から出版された「伝説の愛」もそうだったのですが、原書の判形や体裁を忠実に再現しつつ日本語化する努力がなされるようになったのは、大変喜ばしいことです。
【体裁保持は翻訳権取得に際してのガリマール社からの条件。日本語化に際しては、文字数を合わせるのに随分苦労なさったようです。】


 アニメーション作家として有名な宮崎 駿 氏が巻頭言を書いています。残念ながらこの巻頭言は、スケッチ類を通してサンテックスの人生を窺い知ろうという本書の存在意義を真っ向から否定する、極めて場違いなものであると断ぜざるを得ないものです。


 巻頭言は読み流してページを繰ってゆくと、サンテックスが書き散らしたデッサンの数々がこれでもかこれでもかといわんばかりに現れます。言葉では言い表せない思いを込めた絵もあれば、考えることに倦んでペンや鉛筆を走らせた遊びの戯画もあります。説明文はありますが、あの、流麗にしてときに朴訥なサンテックスの文章はありません。文に幻惑されることなく、「絵」を通して彼を見つめるために編まれた本なのです。いままで各所に散らばっていた彼の絵が一巻にまとめられたのですから、サンテックス研究の上では画期的と呼んで良い企画であると思います。
 著作権上の問題がありますから、それらの数々をここでお見せするわけには行きません。本書がどのようなものであるかを解っていただくために、ほんのちょっぴりだけ例をご覧頂きましょう。

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ネリー・ド・ヴォギュエ所蔵品群(初出)。【右の裸体画モデルは彼女自身と考えられている。】

 この「B夫人」所有のデッサン(p.78-157)は、その殆どが未発表で、存在すら知られていなかったものです。

 

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初期の“prince”達。

 「訳者あとがき」で山崎庸一郎氏が、(操縦士がヒツジの代わりに描いた)「ケース」caisse は Qu'est-ce? 「それは何か?/これ何ぁ〜んだ」であると、重要な指摘をしています。

 存在が知られていながら、本書への収録が叶わなかった作品のリストが p.320 - 323 に記載されています【既にアップロードした記事の最後尾に記した私の所持品も上げられています】。この未収録リストは予想をはるかに超えて少ないのです。すなわち、ガリマールグループの情報収集能力と限られた時間の中では、世に存在するサンテックス遺品を調べ上げるには大きな限界があったということです(私が存在を知っているもので、リスト漏れになっている作品もあります)。本書に記載できたのは、世界中に残っているサンテックスのデッサンの半分以下と覚悟すべきでしょう。

 最終ページの「著者略歴」に若干の誤りがあります。
 「空軍」:「陸軍」航空隊の誤り。(この時期、フランス空軍はまだ存在していません。)
 「予備少尉」「予備大尉」:「少尉」「大尉」の誤り。旧日本海軍には、「海軍予備員」というものがありました。。「予備役」(在郷軍人)や「予備学生」等が含まれます。戦時に不足する将校を確保しておく、または、「予備学生」として急遽補充教育する制度です。任官すれば(予備役ではなく)現役の将校です。予備学生上がりの士官を「予備仕官」(予備少尉・予備中尉、etc.)と呼び習わしていたようです。(時代によって異なりますが)制度上の呼称ではありません。【兵学校や機関学校・その他の軍の士官養成学校を卒業したのが正規の士官です。それ以外に下士官上がりの特務士官があり、軍制上の正規階級です。戦時には予備役であった士官を召集しますが、現役復帰した段階で正規の士官です。召集した医師は軍医として士官扱いです。】


 この本は、読者によって消化され、それぞれのサンテックス像を更に豊かにするためのものです。希有な人間の「想い出」のために、本棚の片隅にそっと置かれるべく編纂されたのでは、断じてありません。少なくとも私は、(サンテックスは怒り狂うことでしょうが)キャバレーの腐った音楽を愛する白蟻の一匹として、待ち望んでいたこの希有な本を囓り尽くすつもりです。読者の皆さんも、是非この「デッサン集成」をしゃぶり尽くしていただきたいと願っております。各地の図書館に置かれたこの本がどんどん手垢に汚れてゆくことこそが、サンテックスに対するこの上ない賛辞なのですから。

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