語 学

解説/文法

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 対訳 フランス語で読もう「星の王子さま,小島 俊明 訳註,第三書房,A5版, p.183+85,2006年6月29日,¥2,500.- + 税,ISBN 4-8086-0620-8
 書評のどのジャンルに配するべきか迷いました。フランス語学習を意識しての対訳という性格上、直訳傾向が多くなるのは当然のことです。にもかかわらず、単なる直訳にとどまらない優れた翻案なので、翻訳書としての評価をするのが適当かと思います。
 左ページにフランス語、右ページに日本語の対訳は、読む者にとってとてもありがたい形式です。同程度の字数にまとめるためには大変な努力が必要だったことでしょう。敬意を表します。注解が巻末にありますから、スピン(リボン)を付けてほしいところです。価格の点で無理ならば、せめて栞を添えてもらえたらと心残りです。
 タイトルページで「野生の小鳥たちの渡りを」と訳しているのは、得失が並びます。まず、多くの人が「渡り鳥」と訳してしまうところを正確に「野鳥」としている点は、評価すべきところです。ただし、「小鳥」とは限らないので、少し言いすぎでした。
 レオン・ヴェルトの説明(p.185)は、不足が過ぎます。単なる読み物ではないのですから、彼がトロツキストであったこと等、もっと詳しく解説する必要があると思います。sériese を「まじめな」だけで片づけず、もっと多義であることを説明すべきでしょう。日本の Le Petit Prince 読者のレベルは、いつまでも「児童文学」にとどまっている訳ではないのです。「. . . ぼくのデッサンが彼らをこわがらせるかどうか、とぼくは彼らに尋ねた」(p.9)と言う使役動詞の直訳は、学習用としては親切で良い訳だと思われます。同じく「. . . ボア大蛇の絵を脇へ放置しておいて . . . 」(p.11)の直訳は良いのですが、serpent は「大蛇」ではありません。おなじ mouton が、「ぼくにおとなしい羊の絵を描いて」 . . . 「なんでもないよ。羊を描いて」と2様になるのは賛成できません。対訳書なのですから、ここで「おとなしい羊」と訳してはならず、注解に任せるべきところです。「中・上級レベルへ向けて」と銘打って始まった17章。「長さ二十マイルに対して、幅二十マイルの(正方形の) . . . 」の「正方形」は無用な補足でしょう。
 贅沢を言えば、「ふうん、ごめんね」(p.127)は「あっ!ごめんね」でなくては、この場面の緊張感が損なわれるのではないでしょうか。こんな点にまで注文を付けたくなるほど、対訳書としてのできは上質であると思います。


 自分で訳す「星の王子さま,加藤 晴久 注釈,三修社,A5判 21 cm, p.275, 2006年9月15日(実際は9月1日発売),¥2,200.- + 税,ISBN 4-384-05336-5

 題名通り、フランス語原文から自分で翻訳してみようという人のための注釈書です。とてもすばらしい企画であると思います。2004年度に開講された恵泉女学園大学の公開講座が基になっているそうで、仕上がりも上々です。
 6-7ページ目に見開きで、「Le Petit Prince の構成」と題するクラスター分析様の枝分かれ図があり、舞台になぞらえて第1幕から第6幕までと、舞台袖からの操縦士による語り(プロローグ,幕間2つ,フィナーレ【これはエピローグの間違い。フィナーレは当然ながら、王子が死んでゆく場面です。】)が示されます。時間経過が単調で、ループ構造を無視しているのは不満ですが、物語を(舞台として)理解するには良い説明だと思います。翻訳に取りかかる前に是非、この図を参照しながら p.264 からの動詞の時制に関する付注を読んでください。

 見開きの左側に原文、右側に注釈という、使い易い構造です。著者が述べているとおり、辞書を引けば判るような語句の説明はしません。指摘されなければ気づかないような、中級以上の文法と、聖書その他へと分野を広げた知識が必要な箇所を解説します。注釈が必要かつ充分な分量であるか否かは、読者次第です。

 この作品は学習用の仏和辞典があれば十分読みこなせる作品です。(p.4)

と述べますが、とんでもない話。それだったら聖書の解説等は無用でしょう。第一、

 フランス語を学び始めてから55年になるのに、Le Petit Prince さえちゃんと読み解けない自分に絶望しながら仕事を進めました。(p.5)

と述べているではありませんか。この著者、作品の奥の深さが判っていません。

 本書の目を見張る特徴は、既訳12点を読破して、誤訳している既出書を該当箇所の注釈で明示している点です。徹底的と言うにはほど遠い(誤訳書を指摘しないこともあります:p.67-3)のですが、文学系の人は誰も手を出さなかった偉業と言って良いでしょう。誤りがあればそれを指摘し、批判するのは当たり前のことです。著作権によって長く保護される事を考えれば尚更のこと。厳しい批判と切磋琢磨がなくては、外国文学を本当に理解することは望めません。ぬるま湯の中でもたれ合う甘ったれ構造から抜け出す、歓迎すべき傾向だと思います。

 本書の優れた点と不足した点を代表する箇所として、p.170 と p.171 を見てみましょう。少し長くなりますが、註3は全文引用します。(例によって、【 】内は RenardBleu の意見・註釈です。)

 《Celui2 que je touche, je le rends à la Terre3 dont4 il est sorti, . . . . 》
 2. 文頭遊離構文。Celui que je touché【本書原文のママ】と言っておいて. . .
 3. プレイヤード全集版に従って Terre と大文字にしたが、「土に還す」という意味では小文字にするのが普通。旧約聖書「創世記」2-7「主なる神は、土の塵で人(アダム)を形づくり、その鼻に息を吹き入れられた」。アダムのあばら骨からつくられたエバはヘビの誘惑に負け、アダムと共に禁断の木の実を食べた 【正しくは、エヴァが先に食べ、アダムもそれに追従した】。神はアダムに言った。3-19「お前は顔に汗を流してパンを得る。土に還るときまで。お前がそこから取られた土に。塵に過ぎないお前は塵に還る」。【これも、欲を言えば説明があった方が親切だったと思います。失楽園は人間の「原罪」(=神の言いつけに背いて「知識の木の実」を食べた)を記述し、そのためにエデンの園を追われて、それまではなかった「死」と「飢え」の宿命を負う事になる場面です。ヘビに「触れられて」死ぬことが「原罪」としての死であれば、物語の読み方に影響します。(バラをエヴァと見るならば、尚更です)】
 4. Je le rends à la Terre/il est sort 【本書原文のママ】 de la Terre のふたつの節を la Terre を先行詞として結んでいるので関係代名詞 dont を使っている。 . . .

 小さな誤りはさておき、文法的な説明だけでなく、聖書の関係箇所を引用するなどしてその解釈に深みを与える優れた解説です。
 皮肉なことに、この著者の大きな欠点をさらけ出す箇所にもなっています。「『土に還す』という意味では小文字にするのが普通」と指摘しておきながら、なぜプレイヤード版に従うのでしょう。あきれるほどの権威主義です。「プレイヤード版は間違っている」と言うべきでしょう。 【事実、レイナル・ヒチコック版(CHAPITRE XVII)も、プレイヤード社が属するガリマールグループの NRF 版も、「terre」と小文字なのです。「地球に還す」では意味不明ですから、明らかにプレイヤード版は誤植です) 権威への盲従は醜悪でしかありません。(同様のプレイヤード版に対する盲従は他にも認められます。: e.g. p.29, ! を ? に変更)】
 さらにこの箇所では、「touche」(触れる)についても一言あるべきだと思われます。

 敢えて欠点を指摘しましたが、全体として非常に優れた注釈書です。とりわけ、他書の誤りをきっぱりと指摘した自信と姿勢は、爽快感をすらおぼえます。フランス語を学習したことがある人には、絶対お薦めの一書。姉妹編となる解説書「憂いの顔の星の王子さま」が待たれます。


 「星の王子さま」で学ぶフランス語文法,三野 博司,大修館書店,判 18.9 cm, p.213, 2007年4月15日発行,¥1800.- +税,ISBN 978-4-469-25074-9

 「はじめに」の冒頭で述べられているように、本書は「文法書」です。初級から、中級入り口くらいでしょうか。しかし、教材として「星の王子さま」を使ったため、あまり適切とは言えない例文も列記されますし、文中の他の単語に関する説明が不足していたり、結構上級に属する内容にも言及したりする場面が出てきます。何より、独学用としては、全体を通して些か説明不足の嫌いを否定できません。コンパクトなボリュームに収めるために少々無理をしたのでしょう。
 語学学習用としては多少難があるにせよ、星の王子さまファンならば、そして、フランス語の勉強をしてみたいと思っている人にとっては、一読の価値を持つ教科書であると思います。原書で読んでいた人でも、もういちどチェックし直して「そういうことか!」と気付くこともあるはず。
 文法を離れて「星の王子さま」やサンテックスの説明をしている箇所や囲み欄がありますが、文法書への挿入ということで気が緩んだのでしょうか、少し首を傾げる文章もあります。たとえば、「最近発見された資料により、帰途、南仏アゲー沖でドイツ軍戦闘機に撃墜されたものと推定されています。」(p.171)はいただけません。


 星の王子さまの教科書,藤田 尊潮,武蔵野美術大学出版局,A5判 21.0 cm, p.84 + 17, 2007年4月1日発行,¥1900.- +税,ISBN 978-4-901631-76-1

 まさしく「教科書」です。これをテキストとして講義をする教師が必要で、独学・自習用には向いていません。更に、この種のテキストとして、Le Petit Prince が適当であろうかという問題も孕みます。Le Petit Prince の物語の進行を追って、それぞれの章からテキストを塊として取り出しているからです。
 いうまでもなく、サンテックスは文法の教科書として Le Petit Prince を書いたわけではありません。文法的な難易度の順に文章が出現するわけはありませんから、物語の進行を追って例文を塊として抽出するのは、冒険というより暴挙です。テキストは1センテンスずつ精選して提示するべきでしょう。説明も設問も、説明不足です。

 CD が2枚附属していますが、説明らしい説明はありません。イヤーホーンを使っての「ながら学習」用で、本気で学習するには向いていません。機能が低いのです。パソコンを使って学習する人だっているのですから、最低限のリスト機能くらいは付けるべきです。出来れば、学習効果を上げる画像という付加価値の提供を図るべきです。企画に真剣さが欠けているのではないでしょうか。



『星の王子さま』をフランス語で読む,著者;加藤 恭子,PHP研究所 21世紀図書館 0038,208p.,1984年4月4日,¥500.-,ISBN 4-569-21273-5 

 「フランス語で」という一語に身を退いてしまってはいけません。フランス語を知らなくても大丈夫です。「品詞だの文法だのは頭が痛い」と思ったら、そこは飛ばして読みましょう。それでも充分です。そして、そのようにして拾い読みするだけの価値のある書物です。内容は難しくはありません。文法以外の部分はとても読みやすく、一つ一つの単語を取り上げながらそのニュアンスを説明することで、「内藤王子さま」では日本語に訳しきれなかった言葉の広がりが、あなたの王子さまの世界に染み込んでくることでしょう。読み終えたときあなたはきっと、もう一度「星の王子さま」を読み直してみようと思う筈です。あなたが読み解く、あなただけの「星の王子さま」の世界が広がり始めることでしょう。 

『星の王子さま』をフランス語で読む,著者;加藤 恭子,ちくま学芸文庫,212p.,2000年10月10日,¥900.-,ISBN 4-480-08579-3 

 文庫本になりました。若干の加筆訂正がなされているとのことですが、基本的には変っていません。文庫シリーズに納められたということは、この後も長く出版し続ける価値があると評価されたことを意味します。この名著にとっても、「星の王子さま」ファンにとっても、とても喜ばしいことだと思います。


 The Little Prince 星の王子さま,寺沢 美紀 英訳,IBC パブリッシング,判 18 cm, p.119 + 34, 2007年7月25日発行,¥900.- +税,ISBN 978-4-89684-574-7

 新しく英訳された「教科書」です。総単語数 14,600語。Level 2 は、TOEIC 350点以上,英検3級以上、だそうです。インタネットを介して音声ファイルが配信されています。巻末34ページには単語リスト(日本語訳)があります。

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