
フランスでの Le Petit Prince 出版60周年を記念して、2006年には様々な催しが計画されていると伝えられています。今回のフランス訪問でも、「知っているか?」と、行く先々でそのことを伝えられました。当然、その計画の中心となっているのはガリマール社です。
ことの起こりは私が偶然手に入れた初版本でした。その奥付には、1945年11月30日出版と明記してあったのです。問い合わせに対してガリマール社は、「 1945年に Le Petit Prince を出版したとは承知していない 」ときっぱり否定しました。パリのサンテグジュペリ協会に出した質問状も、「あなたの持っている本は偽物だと思う」と返事されてしまいました(上記リンク)。しかし、現物が残っている以上、事実は隠しおおせないと観念したのか、1999年になって、「1945年に初版を出版した」ことを公に認めました 。Le Petit Prince 出版歴問題はやっと決着をみたのです。
それなのに、また 1946 年初版であると誤解を与えるような動きをしています。一体どういうつもりなのでしょう?
1945年版には、copyright 1945 と明確に謳っています。しかし、その後出版された Le Petit Prince は、一貫して copyright 1946 と明記しています。1945年に出版権を獲得したことはないのだろうと私は推測していました。今回グラース市で聞いたマルチネス氏(コンスエロの遺産相続者)の話では、出版権は1946年からのはずで、印税の支払いも1946年からだとのことでした。私の推理は当たっていたわけです。つまり、ガリマール社は契約を結んでいないのに違法に出版を強行し、しかも、出版権を得たように嘘を言った(copyright 1945)ということになります。ガリマール社は、1945年の初版出版をもう一度隠蔽し、1946年初版に戻したいと願っているように見受けられます。
2005年6月、ガリマールグループの一社から私宛に一通の e-mail が届きました。2006年に、Le Petit prince 出版60周年を記念して、サンテックスが描いた絵その他を網羅する出版物を企画している。ついては私が所有する絵2点の高解像度画像を送付できるかという質問です。私は無視することにしました。理由の第1は、上述のように初版発行年に関しては事実に反しており、意図的な隠蔽への指向が感じ取られるからです。そのような企てに参加するわけにはゆきません。そして第2に、今後私が所有する絵を、自由に使用できなくなるおそれがあるからです。出版権といって、初めて出版物として発表したものは、その出版社が出版物への使用の権利を取得してしまいます。画像提供の交渉をするのなら、出版権をどうするか(出版権は私が留保している旨を明記するのか)、そして、画像使用料の有無と額についての契約内容・条件の概略等を提示すべきものです。それをしないで画像提供を求めるのは、高飛車で傲慢な態度と非難されてもしょうがないでしょう。「権威あるガリマール社」の「60周年記念」豪華出版物ですから、サンテックス作品集カタログとしての地位を獲得することは確実です。それに記載されれば、本物であることのお墨付きを貰うことになりますから、無料どころか、金を払ってでも画像を採用してほしい収集家はいっぱいいます。そうした事情を背景にした、「載せてやる」という態度の材料集めにひれ伏すわけには行きません。
⇒ 発売されました(2006 年4月。ISBN 2-07-011837-1, € 42)。前評判に違わぬ豪華版で、サンテックスが描いたデッサン類が一堂に会した感があります。が、しかし、すべてではありません。fnac から届いた厚い包みを開いて早速目を通したところ、意外なことに気づきました。古書店のカタログで見た絵(複数)が入っていないのです。フルクトオーソ氏が管理しているはずのコンスエロの遺品(少しずつ売却されているようで、私が手に入れた品もそのルートに依ったものです)も、含まれてはいないようです。
「目垢がつく」という業界用語があります。絵画を扱う人々は、自分が抱えている商品の写真が一般に出回るのを嫌います。コレクターがそれを喜ばないからです。私のように、手に入れた品の画像を公開してしまうのは異端者がすることで、正道なコレクターは 大事に秘蔵するものらしいのです。というわけで件の豪華本、多くの画像は既に公表され書物に記載されているものです(ただし、今までになかった大きさと鮮明さなので、それだけでも価値があります)。今まで世に出なかったスケッチ類の発掘は、思うようには行かなかったようです。