コンスエロは小柄でとても可愛らしい女性であったと、多くの書物に書かれています。私はそう思い込んでいましたし、読者の皆さんもきっとそうだろうと思います。したがって、安藤二葉さんが「コンスエロは身長 168cm だったとパスポートに記載されている*」と書いていらっしゃるのを読んだときはびっくりしました。パスポートは信頼に足る書類です。それでもまだ信じられず、「148 cm の間違いではないか?」と思ったほどでした(手書き数字の4と6はしばしば読み違えられます)。
* What a New/バラと3本のバオバブ ; 立教大学ラテンアメリカ研究所報, 2003 No. 32, p.43-61/サン=テグジュペリ夫人、コンスエロの生涯 ; 現代文学, 2004, p. 23-44

サンテックスと並んだ写真は何駒かが出版されており、彼の肩より高い背丈であることは承知していましたが、ハイヒールシューズを履いているのだろうと勝手に合理化していました。固定観念の恐ろしさをつくづく思い知らされた次第です。なぜ「小柄な女性」になってしまったのか考えた結果、“petite”(可愛い,小さい)を「小柄」と解釈・翻訳してしまった人がいるのだろうという結論に達しました。
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アルゼンチンの首都ブェノス・アイレスは大河ラ・プラタに面していることはご存じでしょう。ラプラタを遡るとその本流はパラナ川で、ブラジルから流れ込んでパラグァイの南国境を構成します。そのパラナ川にブラジル・パラグァイ・アルゼンチン三国の国境(近く)にイグァス川が流れ込みます。このイグァス川は、アルゼンチン・ブラジル国境に82メートルもの落差を持ち、2.7キロメートルに及んで275もの瀑布を作り出します。U 字型に並んだ瀑布線は、「悪魔の喉笛」と呼ばれる最奥部を華とする、壮観な観光スポットなのです(アフリカのヴィクトリア・北アメリカのナイアガラと並んで世界三大瀑布と呼ばれました。最近はベネズェラにあって落差807メートルのエンジェルフォールを組み入れることが多いので、当然、ナイアガラが抜け落ちることになります)。 時のアメリカ大統領夫人 Eleanor Roosevelt が「可哀想なナイアガラ!」と叫んだと伝えられ *、日本語の旅行案内書には必ずそれが記載されています。私は「可哀想な」という言葉に違和感を覚え、誤訳ではないかと感じました。原語は何かと考えた末、たぶん( pitiful や miserable ではなく)“Poor”と言ったのではないかという結論に達したのです。帰国後調べてみたら、やはり "Poor Niagara!" と叫んだとのこと。彼女は "Iguazú makes it look like a kitchen faucet." と続けたと言いますから、この "Poor" は「貧弱な」と訳すべきものだと思います。「可哀想な」は、誤訳と言って良いでしょう。
ひとたび市民権を得てしまうと、もはや疑われることもなく剽窃されてしまう「誤訳」問題は、繰り返し検討されるべき問題でしょう。コンスエロの“petite”もその一つ。内藤 濯 さんの多くの誤訳が正当と見なされ、Le Petit Prince が「子供のための童話」と信じられるとんでもない現実も、よくよく検討される必要があります。 |
サンテックスの身長を(靴の踵を含めて)190 cm とすると、コンスエロは3枚の写真から 168cm, 168cm, 163cm と推定されます。平均値は 166cm となりますが、背を曲げていたり、小さな写真からの推定で、踵の高さの補正もされていませんから、パスポートの記載は正確と思って良いでしょう。
中年以降のコンスエロは、髪を金髪に染めていたそうです。増えてきた白髪を気にしたのでしょうね。