ガリマール社再度の失策

「オリジナル」挿絵

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 岩波書店の「星の王子さま」旧版に掲載された挿絵が、サンテックスが描いたものとは異なったものであったことは、「星の王子さま」ファンならもうご存じでしょう。日本では、岩波書店が「オリジナル版 *」を出版したため、広く知られるところとなりました。

* 「オリジナル版」。 この呼び方に私は賛成できません。「岩波書店独自の版」という意味になってしまいます。実際はガリマール社修正版のデッドコピーなのですから、「レイナルヒチコック版」(もしくは「純正挿絵版」)というべきでしょう。【「オリジナル版」という呼び方は、岩波書店だけのものです。ガリマール社は「オリジナル版」という言葉を使っておりません。それは当然でしょう。1999年以降出版される“Le Petit Prince”にはすべてレイナル・ヒチコック社の「純正挿絵」が使われるのですから、特定の版だけを示す名称としてこの言葉を使ってしまっては、混乱をもたらすことは必定です。岩波書店も同様です。それなのに、勝手に、しかもこの版だけに「オリジナル版」という名前を与えた意図はまったく理解できません。⇒ 新訳ラッシュが起きてやっと私の愚昧さに気付きました。岩波書店はこの事態が来ることを見透した上で、「岩波書店版が本物なのだ!」と主張するネーミングを選んだに違いありません。脱帽です。】
 岩波書店は、レイナルヒチコック版が「オリジナル」もしくは「オリジナル版」と呼ばれているといっていますが、そのような呼び方を私は(これ以前には)聞いたことがありません。最近になって、ガリマール社が勝手に使いはじめた言葉です。ネットワーク上を飛び交う熱烈なファンたちのチャットや真摯に意見交換をしているフォーラムに現れないような言葉は、市民権を得ているとは言い難いのではないでしょうか。

 随分前からや、静岡大学の浅井さんが、「岩波書店の挿絵はおかしい」と指摘していました(ただし、これに関して岩波書店に責任はありません)。国際的にもマニアの間では「マントの色」や「日没回数の違い」が話題になっていましたが、ガリマール社の版が「オリジナル」だと信じている人がほとんどで、しかも、Harcourt Brace 社の版がガリマール社と同じ挿絵に変ってしまっていたこともあって、私の主張は無視されてしまいました。

 ガリマール社は1999年になってやっと、自社版の挿絵が Reynal & Hitchcock 社から出版された The Little Prince/Le Petit Prince のそれとは異なったものであることを公式に認め、修正版を出しました。挿絵問題は最終決着を見たわけです。実は途中経過があって、望遠鏡の先に星がない版が出されたり、いろいろとドタバタ劇があったのですが、現在は一応落ち着いた状態になっています。

 が、しかし、再度修正版が出されることは必定です。原画に忠実とはいえない決定的な誤りがあるのです。

 岩波書店に責任はないので、ここではガリマール社の挿絵をお見せすべきなのですが、岩波書店は忠実にガリマール版をコピーしていますし、このホームページは“日本で起こっていることを中心に扱う”主義ですから、岩波書店「オリジナル版」の挿絵を使わせて戴きます。(許諾のお願いはしていません。「引用」ですから著作権上の問題は生じないはずです。私のポリシーとしては、違法性の有無に関わらずこのような場合必ずご挨拶をするのですが、以前差し上げた質問状をまったく黙殺されてしまいましたので、今回も同じ事になるものと判断し、あえて無断のまま引用します。)


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火山を掃除する王子(R&H版)
 正真正銘の“オリジナル”挿絵、Reynal & Hitchcock 社第1刷(ただしフランス語版)の「火山を掃除する王子」です。


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火山を掃除する王子(岩波オリジナル版)部分
 判りやすいように部分拡大図を示します。赤い円の中に、コッペパンのようなものがありますね。これは一体なんでしょう?
 写真製版上の失策と思われますが、でき上がりのチェックが有効に働いていません。ガリマール社にとってドル箱といってよい「名作」なのですから、もっと大事に扱って欲しいものです。
 ガリマール社は意識的にこの「コッペパン」を紛れ込ませたのかも知れません。新たに掲載された挿絵群は、ガリマール社が「作り直した」絵ですから、著作権が発生します。サンテックスが描いた本当の「オリジナル」挿絵と、ガリマール社が改作した(つまり、ガリマール社が著作権を持つ)新しい挿絵とを区別する、動かし難い目印(のひとつ)なのです。この「コッペパン」がある挿絵を掲載すれば、それを証拠として著作権法違反のかどで提訴することが出来ます。


 「くだらないことで鬼の首でも取ったように」と眉を顰める方がいらっしゃることでしょう。私もそう考えて、1年間沈黙していました。しかし、私が本当に言いたいことは別にあります。この名作をもっと大事にして欲しいということです。
 そもそもガリマール社は、この挿絵変更にあまり乗り気ではなかったようです。1945年版の存在も含めて、自社に都合が悪いことは認めたがらない性癖がありました。挿絵の変更も、遺族に迫られて渋々差し替えを行ったふしがあります。心を込めて取り組まなかったのではないかという不信感が残る出来映えなのです。

 もし挿絵なしの文字ばかりの本だったら、あなたはこの物語りを読みましたか? この作品にとって、挿絵はとても重要です。ある意味では、文字以上に重要な働きをしているのです。その、大事な大事な絵が、「オリジナル」版と Reynal & Hitchcock 版とでは、随分雰囲気が異なるのです。理由はふたつあります。まず第一に、インクの色です。これについては、経年変化による色褪せを修正したのかも知れません。私の蔵書より保存状態の良いものを見本にしたのであれば、その方が「オリジナル」な色なのでしょう。私も声高に異議を唱えるだけの自信はありません。
 二つ目は、水彩画特有の軟らかな「ボカシ」がうまく再現されていないことです。そのために、絵の雰囲気が別物になってしまっています。これはガリマール社の怠慢です。現代の写真製版技術を持ってすれば、こんなでき上がりになるはずがありません。“熱意がない”のが一番の原因と思われます。

 言い逃れの出来ない「誤り」を私は指摘しました。Le Petit Prince ファンの名において、挿絵の修正を要求します。そして、この絵だけではなく、全部の絵の再修正をお願いしたいのです。本当に「オリジナル」な絵を、読者に提供してください。サンテックスが描いた原画が失われている以上、Reynal & Hitchcock 社の第1刷こそが「オリジナル」なのですから、その挿絵を忠実に再現して欲しいものだと願っています。その気があれば、手抜きさえしなければ、簡単な筈です。そんな費用や手間は問題にならないほどの利益を、ガリマール社はこの本から得ているはずではありませんか。


 

 原画が失われているとしたら、「オリジナル版」はどこから挿絵をとってきたのでしょう?。

Reynal & Hitchcock 社フランス語版第1刷
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 太陽光線を表す線のうち、5時と7時の方向の線に注目してください。また、8時方向には線がありません。


Reynal & Hitchcock 社英語版第1刷
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 5時と7時の線が消え、8時方向には線が現れました。キャプションに引用符が付いたことも、この際ご覧下さい。


オリジナル版
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 光線は英語版ではなく、フランス語版のものです。(ただし、7時方向の線は本物と違います。「ゴミ」を拾ってしまったのでしょう。)
 ガラス鍾の周りの草の数が減ってしまっていることにも注目してください。写真製版とはいうものの、誤って「ゴミ」としてクリーニングされてしまうものもあるのです。

 下に述べる「カラス」が無いことと併せて、「オリジナル版」はReynal & Hitchcock 社フランス語版の第6刷以降をもとに写真製版されたであろうことがこれで判ります。

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 岩波書店の「オリジナル版」からお見せします。見慣れた絵ですよね?

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とんがり山(岩波オリジナル版)


 Reynal & Hitchcock 社フランス語版第1刷です。

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とんがり山(R&H版)部分
 赤い円内をご覧下さい。まるでカラスかコンドルが飛んでいるような黒い影、岩波「オリジナル版」(そしてもちろん、底本であるガリマール社のフォリオ叢書版)にはこれがありません。実は、Reynal & Hitchcock 社英語版にはこれがないのです。この「カラス」はフランス語版第1刷から第5刷前期まで続き、第5刷後期および第6刷以降は消えてしまいます。これは、私が世界中で初めて指摘したことの内の一つで、Reynal & Hitchcock 社フランス語版の刷番がないもの(第1刷であるか最終版であるか)の鑑定に決定的な決め手になります。Reynal & Hitchcock 社の所在地が第4刷では 386 Fourth Avenue であったものが、第6刷では 8 West 4th Street と変りますから、社屋の引越しを機に紙型もしくは原型を鋳直したものと推察されます。
 

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