版・刷番号の謎

ガリマール社の性癖?

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 日本の出版物には、必ず奥付というものがあり、著者・発行所・印刷所・発行年月日・版・刷その他が明記してあります。法律で定められているのです。アメリカは法律で決められた条項が少なく、いつ印刷されたものかも判りません。フランスは日本の規定とよく似ています。Le Petit Prince のように版を重ねているものは、何年何月何日に第何版の第何刷を出版したのかが明瞭です。

 版・刷についておおまかに説明しておきましょう。10数年前までと、写真植字が一般的となった現代とは、少し事情が異なりますが、版・刷の原則は同じです。原稿にしたがって、植字工と呼ばれる熟練職人が活字を拾って、型枠に詰めて行きます。現在ではこの過程は写植機で行います。
 1ページ毎に型に詰められた活字を使って、ゲラ刷り(校正刷り)が作られます。訂正その他を終えた活字版は、紙に型押しされます。できた紙型(シケイ。カミガタと呼ぶこともあります)に鉛を主成分とした低融点合金を流し込み、鉛版ができ上がります。これが輪転機その他に用いられる印刷原版となります。活字はバラしてそれぞれの活字箱に戻され、再利用されます。紙型は重版に備えて保存されます。現在では紙型はなく、整形・ページ割りした原稿はフロッピーディスクやCDとして保存されます。
 印刷所では、印刷機にセットした原版を使って、一度に800〜2000冊分の印刷をします。大量に売れることが見込まれるならば、鉛原版を複数作製し、何台もの印刷機(場合によっては何軒もの印刷所)で同時並行に印刷工程を行います。刷り上がった紙は、「折り」と呼ばれる工程に回すために、製本所へ出荷されます。(印刷所は原版を差し替え、別の印刷物の印刷を行います)。 この、同一原版から一気に刷り上げたロットナンバーが「刷」です。初版の部数が少なく(つまり、鉛原版の摩滅が少なく)、かつ、第2刷の出版が見込まれれば、鉛版を保存しておきます。鉛版はあまり耐久性がありませんから、本がたくさん売れれば、改めて紙型から鋳込み直します。(古い鉛版は熔かして再利用されます)。 これを「第2版」と呼ぶ場合と、紙型が摩滅したら改めて活字を拾い直し、紙型を押した場合を「第2版」という場合と、ふたつの流儀があるようです。いずれにせよ、初版は第1版第1刷から始まります。

 さて、ガリマール社の Le Petit Prince なのですが、版にしろ刷にしろ、若い番号が見当たらないのです。別項「幻の1945年版」でも述べたように、Le Petit Prince はいきなり437版569刷から始まります。もっとも、この印刷物に関しては、ガリマール社は自社の発行物件とは認めていませんから一応参考程度にとどめるとして、1947年になっても【ガリマール1946年版を私は所有しておりません。現在捜しております。】、まだ(もし第1版から始まっているのなら「もう」なのですが)437版1592刷です。
 発行年順にこの数字を並べてみると、ひとつの法則性があることが判ります。版番号も、刷番号も、決して若返りません。版番号が若くならないのはあたりまえのことですが、刷番号に関しては、版が改まれば1番に戻るべきなのに、そのような形跡は見あたりません。つまり、版番号と刷番号は、まったく異なる系列に属する数字なのだと推察されます。
 ガリマール社の版番号は、Le Petit Prince の版番号ではなく、ガリマール社の出版物に打たれた連番号のようです。ただし、最近の Le Petit Prince には、刷番号のみで、版番号の記載がありません*。私の手持ちで、最後の版番号は1974.7.10 発行の“19413”と“19414”。1989.12.11 発行の版には、刷番号のみで、版番号はありません。この間のいづれかの年に、版番号の記載を取りやめています。

*  例外があります。Folio Junior 453 は、1990年に“50531”,1997年に“82008”の版番号が打たれています。
 また、1992年に出版された特別版は“55922”,1994年に出された特別版は“69166”の版番号を持っています。(この2冊は、まったく異なる装丁・印刷内容でありながら、同じ 2 07 058105 5 という ISBN を与えられているというとんでもない本なのですが、さすがに版番号は異なります)。この様に、まったく新しい版を起こした場合には、版番号を記載しているように見えますが、1999年に発行した、Folio 3200 には版番号がありません。確固とした一貫性はないようです。
 Le Petit Prince 以外でガリマール社の古い出版物としては、Hérène Froment(あのB夫人のペンネームです)著;On ne revient pas(1941.10.7日発行)の 版番号が第6版、 Pierre Chevrier(おなじくB夫人のペンネーム)著;Antoine de Saint-Exupery(1950.3.6 発行)の版番号は“2043”で、刷番号はありません。私の手持ちの Le Petit Prince と較べてみると、1947.12.15 (1945.11.30?) 発行の版番号は“437”,1951.6.20 発行の版番号が“2540”となっています。4冊の発行年の列びと版番号の順番とは同じ順で、上記の仮説に矛盾しません。少数例だけで結論を出すのは軽率ですが、多分間違ってはいないでしょう。機会ある毎に例数を増やして行きたいと思っています。

 もしこの推察が正しいとすると、“幻の1945年版”と、明らかに活字を拾い直している1947年版とが同じ“437”という版番を振られているのは、理解できません。唯一つじつまが合うのは、ガリマール社が1945年版を破棄して、1946年版に改めて“437”の番号を与えたという筋書きです。

 刷番号については、何をあらわすものなのか、現時点ではまったく的が絞れません。併記された版番号よりも大きなものも、小さなものもあるからです。もう少し時間をかけて推理してみたいと思います。
 ついでに申し沿えれば、岩波書店は版番号を明記せず、連番号になった刷番だけを記載しています。

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