操縦士/飛行士

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 宇宙飛行士(Astronaut)という言葉が珍しいものではなくなっていますから、「飛行士」という単語に違和感を覚える人は少ないでしょう。でもこの言葉は、極めて漠然とした意味しか持たないのです。アメリカのスペースシャトルは地球帰還に際して滑空・滑走しますから、必ず操縦士(Pilot)が(予備を含めて)2人含まれています。しかし、初期の有人衛星のように地球周回軌道を巡り、大気圏に突入した後はパラシュートを開いて緩降下するタイプのものでは、「操縦士」の出番はありません。つまり、「飛行士」でありながら操縦士でない人がいるばかりか、クルーに「操縦士」が含まれない場合だってあり得るのです。
 「宇宙飛行士」だけが特別なわけではありません。「飛行士」(Aviator)という言葉が新聞紙上に踊り、日本中の関心を呼んだのは、1937年の「神風号」報道に遡ります。朝日新聞社所有の国産民間機「神風号」に飯沼正明操縦士と塚越賢爾機関士が乗り組み、東京(立川)-ロンドン(クロイドン )間1万6千キロを、94時間17分56秒で飛んで世界新記録を樹立したときのことです(最後の中継地点は、サンテックスにもゆかりのパリ、ル・ブルージェ飛行場でした)。1927年のリンドバーグ大西洋無着陸横断以来の快挙としてヨーロッパ中が沸き返ったのです。なかでもロンドンでは、英国新国王ジョージ六世戴冠式の祝賀・親善という意味もあったので、大歓迎を受けました。その時日本の新聞報道では、「飯沼・塚越両飛行士」と表現しています。この呼称方は民間の搭乗員に限られます。

 アメリカ海軍では「水先案内人」と区別するため、操縦者を“Aviator”と呼ぶ。和訳するときは「操縦士」である。

 軍隊では、士官と兵を峻別します。「士」といえば、士官(少尉以上)を指します。指揮官として士官搭乗員はいましたが、下士官兵が搭乗員の大部分を占めた旧日本軍では、「搭乗員」「乗組員」と同じ意味で 「飛行士」という言葉を使うことはなかったのです。旧海軍の航空隊には飛行科と呼ばれる部署(運営上の組織)がありました。飛行科の長を飛行長と呼び、それを補佐する役割を「飛行士」といいました。階級は尉官(大尉・中尉・少尉)です。飛行長も飛行士も、指揮系統上の職務であって、空を飛ぶ能力や経歴を持っているとは限りません。
 飛行科には、実戦部隊としての飛行隊があります。話を空中勤務者だけに限れば、そこに飛行隊長・飛行隊士という士官が配属されています。下士官兵は「飛行員」と呼ばれ、操縦員・偵察員・搭乗整備員等に区分されます。【以上は、林 譲治 さんのホームページ 日本海軍データ 中の、 海軍航空隊編成令を参照させていただきました。飛行士等に関しては 第二章 戦闘編成 「飛行科」に、搭乗員に関しては 第四章 補足「航空機搭乗者の搭乗配置」に定められています。】
 軍政上の組織名とは別に、部隊では「搭乗員」「乗組員」と言った言葉も使われていたようです。具体的な役割で表すならば、操縦員・副操縦員・機関員・無線手・爆撃手・機銃手・観測員・偵察員・等がそれにあたります。P38(元来は戦闘機ですが多目的に使用され、軽爆撃機としても重用されました)や零戦のような単座機ならば、操縦者が一人ですべての役割をこなすことになります。

 サンテックスの職業 Pilote は、明確に「操縦士」と表現するのが正しいのです。それなのにサンテックスのことを「飛行士」と表現する人が後を絶ちません。インターネットのチャットやフォーラム、はては各種の解説書に至るまで、ほとんどの人がこの表現を使います。国語辞典の中にさえ、「飛行士」の項で「操縦者。パイロット」と説明している例があるほどですから、あながちその人の責任とばかりはいえないのですが、自分が使う言葉のことをよく考えもせず、他人が書いたことを平気で剽窃する(そして、フランス語原書を読んでいない = 内藤 濯氏の日本語訳を読んだだけでものをいう)風潮とも関係があるのでしょう。私は、サンテックスのことを「飛行士」と表現している文章を読むとき、「他人の意見の盗用である(あるいは原書を読んでいない)可能性がある」ものとして用心することにしています。

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