改定履歴

裏改定の疑いあり

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 岩波書店は「お固い」出版社として定評があります。経営方針も手堅く、出版物はすべて「買い取り」、つまり返品ができませんから、売れ残ったら販売店の欠損になります。利の薄い書店泣かせの流通方式で、岩波文庫を置いていない書店が多いのはそのためです。そのかわり、流行に流されず、しっかりとした内容の本を数多く出版しており、日本を代表する優良出版社です。

 「星の王子さま」には複数の判形が有り、特に「オリジナル版」が出てからすべての版で挿絵の改訂が行われたため、従来の版との継続性も含めて系列区分が複雑化しました。初版本は岩波少年文庫53のシリーズに属し、新版が出るまで連綿と続いたベストセラーです。他には大判でカラー挿絵をフルに使った「岩波の愛蔵版1」が人気を博し、少年文庫版と合わせて岩波書店にとって一番のドル箱になりました。
 1953年に初版を発行して以来、毎年版を重ねた少年文庫53は、「紙型が摩滅したために」1966年に版を改めました。その機会に内容も少し手を加え、改めた箇所が有ります。たとえば、それまで

  ”長いこと、おとなたちのあいだで、くらしました”(P.7 - 8) 

だったものが、

  ”思うぞんぶん、おとなたちのあいだで、暮らしました”(p.9 -10) 

と、単語の入れ換えや漢字化が行われています。ページ数が変わったのは、一行当たりの文字数が変わったためです。
 岩波少年文庫53は、新版が出るまでに2回改定を行っています。
   改版歴(岩波少年文庫53)
    1966.7.7  21刷
    1976.3.25  42刷

 このことは、奥付に明記してあります。さすが岩波書店らしく、出版社のお手本のようなきっちりした構成です。
 内容が変更された*のに、「改定」を公表しないことも有ります。岩波書店にとっては、改訂版と呼ぶほどのこともないマイナーな変更なのでしょう。

*
 岩波の愛蔵版1
  1968.5.10  21刷  「時間をむだにした」
  1971.6.2   25刷  「ひまつぶしした」

 岩波少年文庫53
  1972.9.10   35刷  「時間をむだにした」
  1973.12.10  37刷  「ひまつぶしした」

 全刷を揃えるべく努力をしてはおりますが、力不足のため、私のコレクションには欠落が多く、上記の間を埋めることができません。しかし、二つの版を見比べれば、愛蔵版の方が早く(1971年またはそれ以前)「ひまつぶし」に変更されたことは明らかです。(岩波少年文庫53 第36刷を所持しておりませんが、1973年前半の出版であることはほぼ疑いがないので、少年文庫本の変更は1973年と見て良いでしょう。)

 この間、「愛蔵版」は全国学校図書館協議会の必読図書の認定を受け、読後感想の「課題図書」に指定されたりもしましたから、古い版で「星の王子さま」に出会った人も多いはずです。その人々にとって、「ひまつぶし論争」は、「記憶にない」と首をひねるばかりの話題となってしまうことでしょう。


 お尋ねを戴きましたので、急遽追加いたします。(2005.12.28)

岩波少年文庫53(初版,1953.3.15)p.22
 おとなの人たちに、<桃色のレンガでできていて、窓にジェラニュウムの鉢がおいてあって、屋根の上にハトのいる家を見たよ>といったところで、どうもピンとこないでしょう。おとなたちには<十万フランの家を見た>といわなくてはいけないのです。するとおとなたちは、とんきょう声をだして、<なんてりっぱな家だろう>というのです。

岩波少年文庫2010 84刷(1998.9.3)p.24
 おとなの人たちに、<桃色のレンガでできていて、窓にジェラニュウムの鉢がおいてあって、屋根の上にハトのいる、きれいな家を見たよ …… >といったところで、どうもピンとこないでしょう。おとなたちには<十万フランの家を見た>といわなくてはいけないのです。するとおとなたちは、とんきょう声をだして、<なんてりっぱな家だろう>というのです。

 上記の中間で一旦変わって、また元に戻ったことがあるかどうかは、確認しておりません。皆さんお手持ちの「星の王子さま」はどうなっていますか?


 日本語版の版ごとの読み較べは、まだ行っておりません。それよりも、原盤である reynal & Hitchcock 版や、Gallimard 版・Harcourt Brace 版の誤りチェックの方が急務ですが、あまり進んでいません。
 岩波初版第1刷を所持している人は多くはないと思われます。これをもととした各版のチェックは、コレクターにとって半ば義務のようなものですから、いずれ行いたいとは思っています。

 多忙のため久しく更新を行っておりません。こののちも、頻繁な更新は無理と思われます。
 ネット検索をしていた際に、チラリと「わたしが持っている古い版では『時間をむだにした』となっている。いつから『ひまつぶし』に変わったのですか?」と言うチャットの一部分が見えました。その時は、「ああ、気づいている人もいるのだ」と思っただけでしたが、ひょっとしてその人は、このサイトをのぞいて見たけれど答えが見つからなかったために「だれか知りませんか?」と呼びかけていたのかも知れません。だとしたら申し訳ないことをしました。
 『総覧』と大見得を切っておきながら、この程度の解答もないようでは、羊頭狗肉のそしりを免れません。「上記の欠刷を埋めてから」「忙しいから」と更新をさぼっておりますが、話題や疑問の焦点になっていることに関しては、特別扱いで記事掲載を心掛けますので、質問があったらお寄せいください。できる限りの努力をいたします。

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