お 勧 め 書

青いキツネの 推 薦 書

 初訳の内藤 濯さんを含めて、17人もの人が、日本の読者のためにそれぞれ丹精込めて Le Petit Prince を日本語化してくださいました。私たちは、世界中でも指折りの、質の高い邦訳群を手に入れたといって良いと思われます。「どれを読むべきなのか?」と迷ってしまう人も多いことでしょう。もちろん、すべてを読破出来れば一番望ましいのですが、そうとばかりもいってはいられません。
 「最高の一冊」を選び出せれば、それこそ“最高”ですが、簡単には行かないほど伯仲した質の高さが揃いました。「3冊程度に絞れるか」と思いましたが、読み比べてみると、明確な線引きが難しいことがはっきりしました。質の高低よりも色づけの個性の差が大きく、それぞれに棄てがたいのです。結局、費やす価格と時間に見合う内容の講読推薦書は、用途別に下記9冊。「物語の筋を追うだけでなく、何度も読み返せばその都度感得するものを見つけ出せるはずですよ」と、お勧め出来る目配りとバランスの良さを持った翻案です。
総 合 優 良 訳
星の王子さま,稲垣 直樹 訳,平凡社,ISBN 4-582-76562-9

 やや甘ったるい、「童話」としての余韻を残す文体と解釈。違和感を抱かせないこなれた日本語、原作を損なうことの少ない翻案。何度も読み返して、その都度内容が深まる原作の奥深さを充分に秘めて、読者の解釈に作品の全存在をあずけきることができる翻案で、定訳と呼んでよい仕上がりと思います。

ちいさな王子,野崎 歓 訳,光文社,ISBN 4-334-75013-2

 過剰な思い入れを排し、原作者が伝えようと望んだであろう考えを浮かび上がらせるに適した、乾いた文体。説明的な付け加えをせず、淡々と、しかし、注意深く原作に忠実に、日本語化がなされている。細部にまで目配りが利いた翻案。

星の王子さま,河野 万里子 訳,新潮社,ISBN 4-10-2122044-4

 歯切れの良い文体。子どもに読み聞かせるのに適したリズムを持つ。大見得を切る所作事を持たない控えめな翻案ながら、丁寧に訳した文章は、読み返す度に新しい何かを気付かせる深みを秘めている。

星の王子さま,石井 洋二郎 訳,筑摩書房,ISBN 4-480-42160-2

 「です・ます」調の語り口を駆使して、背景に静まりかえった雰囲気を醸し出すことに成功している。会話文の引き締まりが、芯のない「子ども向けの童話」に陥ることを踏みとどまらせる。

星の王子さま,小島 俊明 訳,中央公論新社,ISBN 4-12-003643-X

 「サンテックスの含蓄ある美しいフランス語を、一言一句おろそかにしないで、それに見合う日本語に置き換えるように心がけた」と訳者はいう。しかし、縛りのきつい「です・ます」調を採ったことで、物語全体に潜む起伏とうねりを逃してしまったことが惜しまれる。

星の王子さま,谷川 かおる 訳,ポプラ社,ISBN 4-591-09340-9

 たたみかけるようなテンポの会話がすばらしい。黙読ではなく、声に出して読みたい翻案。複数人での朗読や、学校の授業で寸劇仕立てにしたり、(許可を得て)学芸会の台本用に使用するには一番適していると思われる。

 フランス語学習用 対訳書
対訳 フランス語で読もう「星の王子さま,小島 俊明 訳註,第三書房,ISBN 4-8086-0620-8

 Le Petit Prince の対訳書は殆どありません。初めての本格的な対訳書ですが、文句ない質に仕上がっており、学習用としてお薦めです。巻末の注解も、初級用としては十分で親切。
【加藤恭子さんの「星の王子さま」をフランス語で読むという本がありました。(岩波書店の独占契約のために、全文を翻訳することも、対訳書を作ることも不可能な時代でした)。本書はそれと同系統に属する、文法解説をしながらフランス語を読む形式を取ります。著作権保護期間が終了したために、フルテキストの仏日対訳が可能となりました。フランス語を勉強するための読み物として Le petit Prince を選んだ人に、教科書として使う価値があるお薦めの教材。】

 フランス語原書用 副読本
「Le Petit Prince 星の王子さま,三野 博司 訳,論創社,ISBN 4-8460-0443-0

 原作をフランス語で読んでみたいと思う人は多いでしょう。フランス語版を手に入れることは簡単ですが、辞書と首っ引きでも、内容を理解することは容易なことではありません。Le Petit Prince は、誤って喧伝されているような「子供にも判る」ほど底の浅い作品ではないからです。
 この書は、「こなれた日本語」を犠牲にしてでも、それぞれの文、ひとつ一つの語を大切にして、丁寧に日本語に移した翻案です。原書と辞書とこの副読本があれば、あとは読者の感性と理解力に応じた成果が約束されます。読み返せば読み返すほど、作品の奥行きが拡がってゆくはずです。それはそのまま、読者の世界の広がりなのです。
 何年か経ったら、また読み返してみましょう。きっと新しい収穫を手にするはずです。Le Petit Prince は、そういう作品なのです。フランス語での読解チャレンジに、本書はとてもありがたい存在です。
【半過去とか大過去とかと言った文法は一応学んだ、あるいは、そうした文法上のことは抜きにして、文学作品としてフランス語で読んでみたいという人に、参照用の副読本としてお薦めです。「文意の広がりや深読みは自分自身でしたい。素直な解釈はどのようなものだろう?」という要求に、的確に応えてくれます。】

 子 供 向 け
「新」訳 星の王子さま,辛酸なめ子 訳・絵,コアマガジン,ISBN 4877349006

 人生の機微なんて判るはずのない子供にも、 Le Petit Prince はそれなりに読むべき部分はあり、子供に与えておけば、その成長に伴って新たな発見を約束する読み物です。でも、内藤 濯さんの翻案は、「わけわかんない」「変な本!」と子供からは投げ出されてしまうものでした。そうした子供は成長後、この作品に拒否反応を示します。せっかくの名作が、読み始めるべき年齢層を誤ったために、不幸にも適齢になった読者からもそっぽを向かれることになってしまいました。
 この「改作」は、子どもにも読めます。文字が読めない幼い子でも、読み聞かせで充分楽しめる現代的な言葉使いとアップテンポの内容展開です。しかも Le Petit Prince の大筋を踏み外してはいません。成長に伴って読み返せば、その都度得るところはあります。本当の大人になったら他の翻案で、本当の Le Petit Prince を読めばよいのです。子供に買い与えるのなら絶対にこれ。推薦する価値があると思います。

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